安倍東山稜  道迷いの富士見岳か?   '12.12.13

 今回の富士見はばっちりの天候に恵まれました。なんと運のいいことでしょうか。この度の山は実は初めての山域でわくわく気分でやってきました。その山域は静岡県の安倍川にそった東側にある尾根で安倍東山稜といい、北は安倍峠から大光山、十枚山、青笹山、真富士山、富士見岳、竜爪山と南へ伸びる長い尾根をいいます。

 その安倍東山稜のほぼ中ほどから南側あたりに位置する富士見岳をまず登ってきました。富士見岳といってもどうやら近年に地元の山好きの方たちが名付けて展望をよくしたようで、ガイドブックやネット情報はほとんど登場しないくらいの山のようです。まずはその頂からの富士をご覧いただきましょう。


富士見岳山頂のズームでの富士

 実はこのようなマイナーな山から富士を眺められたのには訳がありました。それは我が所属する静岡ガイド協会の研修会参加なのでした。案内では『山での事故原因のトップは道迷い。ルートガイディングが出来れば、道に迷う事もなく登山を安全に楽しむ事ができます。今回は、過去に遭難事故の起きたフィールドにて、実践講習を行います。』との研修会で、当然富士も見られることだろうと喜び勇んでの参加となったのであります。

 ところが、最初から林道が新しく造られ、さらにその延伸工事真っ只中で、登山口が見当たらなくなってしまっています。俵峰の集落奥の舗装路を上がって、車をいったりきたりで右往左往、舗装路から地道に変わってすぐ左手にようやくそれらしき道を発見して登山の始まりとなりました。

 講師の方からは指示どおりの「和田島」地形図の地形、等高、方角等をよく見て、みんなと相談せずに自分の判断で現在地を確認しながら歩くようにとある以外には、まずここは地形図上この地点ですよ等の解説は皆無です。
 もちろん道には稜線まで一切表示板などはありません。ただし、入口にはちょうど1年前に行方不明になった情報お願いのチラシが貼ってありました。聴けばこの山域は道迷いの遭難者が絶えないとのことでした。しかし、踏み跡や赤テープはありますので、道としては理解できるのですが、さて、この道は地形図のどの部分を進んでいるかとの判断は容易ではありません。

 さぁ、↑の地形図をご覧になって富士見岳が、あるいは駒引峠が地図上ではどこになるのか同定できますでしょうか?、地図上にはその表記がありません・・・

 植林の中のきつい上りをなんとか登りあげ、一汗かいてようやく稜線に上がって樹林の薄暗い中の地蔵さんの座る駒引峠でした。もちろんその峠名の標示(但し標高の標示はなし)があったので分かったのですが、ではその駒引峠の地形図上はどこなのかとの判断がこれまた容易ではないのです。。

 実は事前にネットを駆使したにもかかわらず、登山情報もほとんどなく、下調べは完璧ではないような状態での参加でした。そして地形図上にはもちろん駒引峠、富士見岳という表記はありません。この地図上では多分これだろうと判断して稜線を北向きに進行、「さて次のピークはどこですか?」との問いかけにもこれだろうと判断しながら、イヤ待てよ、それにしては時間的に早く着きすぎているな?と、疑心暗鬼です。立っている杉の木に955と書かれている標示を見て、何それは間違いだろうと勝手な判断をし、また北へ向かうのですが、どうも実際の地形が地形図とは異なるようだったのです。もちろん、地形図に記入されている電線も見当たらないのです。

 しかし、さらに907あたりまで来てようやく北西に進むところで、あっ、地形図上はここだ!と同定する始末であったのでした。この後は地図どうりの地形を読みながら、事前に調べていた標高1078mと富士見岳との両方の標示があって、やれやれここが山頂だと確信してホッとしたのでした。もちろんこの山頂にも登山口にあった行方不明者情報依頼のチラシもありました。すぐに高度計の標高を訂正です。

 
   
 富士見岳 1078m    思ってたほど展望は広くない

 一息すると講師から「さぁ、これまで歩いて来た道を地形図に書き込んで見せてください。終わればそれからお昼としましょう。」とのことで、やっぱり取りつきの登り始めから駒引峠までとその後の判明箇所までの微妙な道を困りながら、自分の思ったルートを書き入れて提出したのでした。

 そこで講師から全員に対し、これまで歩いて来たルートの説明となったのですが、「前半の峠一帯の地形図上の思い込みの失敗が大きいですよ」、とのことで地形図の位置を二本南の登山道が最後に南向きに歩いて峠に着いたことからと判断したことによる稜線での駒引峠箇所の誤りでした。このあたり方角だけでなく、周りの地形がどうなっているのか、特にここは船窪地形という比較的分かり易い地形を見逃しているのでした。ここを押さえれば地形図の道ではないことも判明できたはずでした。
 しかし、その後も稜線上を地形図上での駒引峠はこの箇所だと思い込んでしまったためによるのが大きな原因であることが説明されたのでした。しからばその峠まで踏んだコースは、地形図のコースでよいのかとのことで、地形図はH17年更新となっていますが、そのコースは実際には廃道となってしまっているのです。ここだけではありません、峠の東側の黒川へ下るコースも廃道です。というように地形図でも廃道となっていたりして、この地形図が絶対に現行のコースとはいえない場合が多々あるのです。
 したがって、「我らの峠まで上がってきたルートは地形図にはまったく記載はなく、廃道コースの北側を巻きながら急坂の植林地帯を上がってきたことになるです。要は歩く中で地形図と実際の地形等を見比べながらの必要性が重要なのです」との解説であったのです。
 「近年ネット情報が簡単に見られるのですが、逆に言えば鵜呑みにはできないことを承知すべきであります。また登山道にもたくさんの指導標もあるのですが、これとても100%の信用性があるのかとのことも頭にいれておくべきでしょう」とのことでありました。

 さぁ、昼食です。富士や南ア南部の主峰たちはきれいな冠雪を見せてくれています。もちろん、地元での人気高い南の竜爪山や駿河湾、北側には明日歩く真富士山も見えており、いっそう食事が美味しく、すばらしい眺めでした。  (次の5枚は画像クリックで拡大画像が見られます。)

富士見岳より 南ア南部の山並み 左から聖、赤石、荒川など 真富士山 竜爪山

 ゆっくりのんびり大休止とした後は、「こんどは引き返しますが、ここでこの山域はよく行方不明となる遭難の絶えない山として知られています。もちろんここでも駒引峠からのピストン行程で行方不明となって1年間見つからなかったことが過去にあります。その方はどうしてどこで道を失ったのか検証しながら歩きましょう。」とのことでした。もちろん駒引峠まで道標はありません。自分でも最初の南へ直角の箇所はトレースがしっかりしているために大丈夫だろう、コースはあの東南へ曲がるあたりが小尾根が直進しており、踏み跡薄いあのあたりかな?、と思いながらの歩行でした。
 またその後も尾根が広がるあたりは当然踏み跡は薄くなってしまっています。しかし、よくよくあたりを見渡せば赤布が下がっています。でも不明者はこのあたりでも躊躇するかも知れないなとも思ったりしながら歩きます。

 そして駒引峠です。ここはすんなり、右折して少し下りた箇所で、講師による説明です。道を交差するかすかな踏み跡を指さして、「実はその方はどうやら最初の東南の尾根へ入ってしまい、かすかな踏み跡を追ってそのまま南へ進み、このように薄い踏み跡の道をさらに南へ向かったようです。1年後の発見箇所はこの先からわずかに行ったところのようでした。
 考えると正規のコースよりほんのわずか下の西側をずっと歩いてしまったようです。当人は「富士見岳で宴会をした後にキジウチを済ませてすぐに追いつくから先に行ってくれ」とのことで、同僚は先に進んだが、駒引峠についても追いついてこないために、同行者の方達は探しに戻ったようですが、見つからなくて警察沙汰となってしまったようです。」

 こうして我らは、もう一度駒引峠まで戻り、地形図に表記の登山コースで、東側の黒川方面への道が廃道になっていることも確認した後、さらに地形図表記の俵峰集落へ下る西側のルートを追って下山してみようとなりました。
 小さな尾根をほぼ西へ降りていき、途中から北向きにリターンします。もちろん講師によるルートファインティングです。足元は完全に杉の植林帯の中で藪状態となって、昔は道があったのでしょうが、今ではさっぱりわからずに完全な廃道となっていました。それでも尾根の藪をどんどんくだると林道に降り立ち、わずかに北向きに降りていくと、朝に車を置いた地へ辿り着きました。

 静岡に返って検討会に続き各人の感想等を述べ合い、夕食会を済ませて解散となったのでした。いずれにしても先月の危急時の引き上げ技術やフィクッスロープの張り方、ショウトロープによる安全確保技術の他にさまざまなロープワーキング等の研修に引き続き、今月も意義深く中味の濃い研修会となったのでした。

 翌日は単独で真富士山を歩いて富士を楽しんできました。こちらからご覧ください。

 ホームヘ

 











第一登山口からの真富士山